はじめに
私はリワークに通っている間に復職期限が来ました。その時は、リワークに通うことで確実に回復し、このままリワークに通うことで今後よりよい生き方ができると思っていました。そのため、無理に復職するのではなく、最後までリワークを終えてから仕事をすることに決め、退職をしました。しかし、私はこの選択を後悔しておりません。今ではあの時に復職を選んだ場合よりも良い人生を送れると確信しています。
出会い
私は過去に2度の休職をし、3度目の休職をしている間にリワークと出会いました。過去2度の休職では、特別な治療やセルフケアをすることなく、時間の経過による回復により、3カ月で復職していました。しかし、3度目の休職では、3カ月経っても6カ月経っても良くならず、このままでは一向に良くならないと思い、リワークに通い始めました。
リワークに通う前は、自分の症状は自分の力で改善できるものではないと思い込んでいましたが、リワークに通ったことで、その考えは根本から覆されました。同じように思っている方がいたら、リワークに通うことをお勧めします。
リワークの存在を知ったのは、主治医からの紹介がきっかけでした。3度目の休職に入った時、主治医からリワークの紹介を受けましたが、その時は何もやる気力が無かった為、リワークに行くことを考えてもいませんでした。休職して3カ月経ってもほとんど良くならず、主治医からは再びリワークを勧められました。ただし、「リワークに行っても、必ずしも良くなるとは限らない」という主治医の言葉や、「そんなところに行って治るなら苦労しない」という思いがあり、その時点でもリワークに行こうとは思いませんでした。休職して6カ月経ち、少しずつは回復してきたかなと思っていたものの、まだ復職できる自信はありませんでした。復職までの期限が迫ってきたため、焦りが出てきました。そこで、「このままでは何も変わらないし、リワークに行こう」という思いが出てきました。そして、リワークに通い始めました。
私がリワークに通い始めた時点では、あまり意欲が湧かず、多少テレビを見たりマンガを読んだりはするものの、積極的に行動しようという気力はありませんでした。そのため、朝起きても二度寝をしたり、日中昼寝をしたりする時間が長く、家にこもってばかりでした。
始まり
リワークに通い始めたときは、週2日半日通うところから始まりましたが、支度をして外出するのが億劫な気持ちがありました。少し休む日もありましたが徐々に回数を増やし、4カ月目から週5日の終日参加になりました。以降は休まず通い続けられました。最終的に、約6カ月通って卒業しました。
生活チェックミーティング
まず、リワークに休まず通い続けられるようになったのは、生活チェックミーティングというプログラムのおかげです。このプログラムを行うにあたり、生活チェック表を記録する必要があります。起床と就寝時間、日々の活動記録、睡眠の質や食欲はどうだったか、と自分で記録します。自分の生活を視覚化することで、自分の生活リズムが乱れていることを改めて自覚しました。そして、実際にプログラムに参加すると、毎週4人前後のグループで1週間の生活チェック表を見ながら、各自の抱える生活リズムの問題を共有し、意見交換をして解決方法を探っていきます。私の場合、自分の乱れた生活を見られることが恥ずかしいという考えがあったことと、他のメンバーが工夫して生活リズムを整えていることを知り、「生活リズムを整えなければいけない」と思うことができました。初めはアドバイスをもらう側だった私も、リワークに通い続けることで、アドバイスをする側にまわっていきました。自分がメンバーに助けてもらったように、自分もメンバーを助けたいという思いがありました。
心理教育
生活チェックミーティングの他に最初に参加したプログラムは、心理教育でした。心理教育ではうつをはじめとする精神疾患を知るとともに、どのような症状がでるのか、どう対処していけばよいのかを学ぶことができます。自分の性格傾向などを把握するテストも実施することで、自分自身のことをより深く知り、それぞれの性格に合った今後の生き方を模索していく事ができます。また、同じ境遇の仲間と一緒にプログラムに参加することで、共感や新たな発見があり、自分一人で学ぶのとは全く違うものとなります。
個人ワーク
次に取り組む内容として、個人ワークがあります。個人ワークでは、資料を読んだり計算を解いたりします。その後、集中力や疲労感、眠気を記録します。また、記録にはありませんが、休憩を入れることも大事です。これは、今の脳の働き具合が分かるとともに、自分で作業のペース配分を工夫することで、集中力を持続させる方法や眠気と疲労の軽減具合を把握できるようになります。生活リズムが整い、自分自身について知り、作業のペース配分ができるようになると、疲労をためすぎることがなくなり、次の日以降に負担をかけずに済むようになっていきます。そして、安定してリワークに通えるようになります。
安定してリワークに通えるようになると、参加するプログラムが増えていきます。ヨガ体操や集団認知行動療法、アサーション、趣味レクリエーション講座です。
ヨガ体操
ヨガ体操では体をほぐすところから始まり、休憩をはさみつつ筋力を鍛えられる動作も行っていきます。そうすることで血行を良くし、体力をつけることができます。しかし、ただ体を動かすだけではありません。動いた後に脱力する時間があるところがポイントです。緊張のあとに弛緩することでリラックスでき、非常に心地よい時間を過ごせます。肉体的な作用はもちろん、精神的にも良い効果があると思います。
集団認知行動療法
集団認知行動療法では、自分の<認知(物事の捉え方)>が<気分・感情>や<身体反応>、そして<行動>に影響を与え、その結果がさらなる<認知>を生み、再び<気分・感情>や<身体反応>、<行動>に影響を与えるという相互作用について学べます。逆に言えば、認知を変えることができれば、気分・感情や肉体、そして行動に与える影響を変化させることができるのです。ネガティブに捉えればネガティブな感情や身体反応、行動が生じ、ポジティブに捉えればポジティブな感情や身体反応、行動が生じます。私自身もネガティブに捉えがちで、マイナス思考に捉われることが多かったのですが、集団認知行動療法を学ぶことで認知を変え、マイナス思考を減らし、プラス思考を増やすことができるようになっていきました。すぐにできるようになるものではありませんが、自分の意識を変えることで、徐々にできるようになります。ポイントとしては、プログラムに「集団」という言葉が入っているように、他のメンバーと一緒に取り組むということです。メンバー間で意見を出し合うことができ、自分一人では変えにくい認知を変える手助けがもらえるのが良いところです。
アサーション
アサーションでは、コミュニケーション能力の向上が図れます。その人のそれまでの人生経験や性格によってコミュニケーション方法に違いはあると思いますが、アサーションでは状況に応じてコミュニケーション方法を工夫することが学べます。強く自分の主張をする「アグレッシブ」、自分は主張しない(できない)「ノンアサーティブ」、そして相手の主張も自分の主張も大事にする「アサーティブ」の3つを学び、実際にメンバー間でロールプレイをすることで、その効果を体験して理解することができます。その他にも、話す速度や声の大きさ、トーンなど、様々な工夫を身に付けることでコミュニケーション能力は向上します。
趣味レクリエーション講座
趣味レクリエーション講座では、リワークメンバーと時にはスタッフも一緒になり、コミュニケーションをとりながら楽しい時間を過ごします。内容は多岐に渡りますが、誰もが行っている多種多様な余暇活動から1つをとりあげ、皆で参加します。例としてはダーツやボッチャ、ペーパークラフト、百人一首などがあります。純粋に今のこの時間を楽しみ、人生における余暇活動の大切さを実感できます。
また、メンバーの趣味を発表する趣味プレゼンが行われる場合もあります。最初は聞く側として参加するかと思いますが、メンバーの趣味に対する思いを知ることができるとともに、その趣味の魅力や思わぬ一面を知ることができる楽しい時間です。これをきっかけに新しい趣味に目覚めることもあるようです。次に発表する側として参加する場合には、復職を見据えた資料作成やプレゼンの練習でありつつ、メンバーに自分のことを知ってもらい、よりコミュニケーションを図りやすくする機会でもあります。実際にこれをきっかけとしてメンバーと話をするようになりました。そして、私は人前に立つことが大の苦手でしたが、趣味プレゼンをすることで人前に立つことがそれほど苦手ではなくなったように思います。自分の好きな事について話すため、話しやすく自然に楽しい気分にもなり、人前で話す良い練習になると思います。アサーションで学んだ内容を実践できる良い機会にもなります。
グループワーク
ここまでに紹介したプログラムを終えることで、コミュニケーションについて一通り学び、実践を経験したので、それを本格的に活用するグループワークへの参加が始まります。グループワークでは、コンセンサス、ディスカッション、コミュニケーションワークなど、毎回違う手法の話し合いを行います。
コンセンサスでは5名前後の複数のグループを作り、グループ内でテーマに基づく話し合いをし、全員が納得する形でグループの意見を一つにまとめ、最後に各グループがどのような流れで意見がまとまったのかを発表します。考え方の違う人間同士が全員の納得できる形で意見をまとめるのも難しいですが、グループによって違う意見になるところも興味深いものです。
ディスカッションではテーマに基づいてメンバー全員が意見を出し合います。意見を一つだけにまとめる必要はありませんが、メンバーが出し合った意見から、ある程度の結論を出します。色々な考え方、ものの見方があることが分かり、自分とは違う視点が得られるとても良い機会です。
コミュニケーションワークでは、名前の通りコミュニケーションをとることが主となります。メンバーには共通の最終目標があり、その目標を達成するための情報として、メンバー全員が異なる情報カードを与えられます。カードを見せること無く会話で情報を共有し、全員の情報を整理することで、最終目標を達成させるための手段が分かるというものです。必ず全員の情報が必要なので、全員がコミュニケーションを取り合うことになります。限られた時間のなかで情報を共有する難しさや情報を整理するための工夫を学ぶことができ、仕事上でも役に立つ内容だと思います。また、推理ゲームのような要素があり、私は単純にとても楽しく取り組むことができました。
自己洞察
上記のプログラムを一通り体験したころには、個人ワークの時間を使って「自己洞察」というものに取組みます。自己洞察では、自分が初めて休職したころから現在に至るまでの経緯を振り返り、どうして休職するに至ったかを考え、今後同じようなことにならないための方法を、リワークで学んだ内容から導き出していきます。自分の辛い経験を振り返るため、辛い作業となる人もいるようですが、私は職場環境や人間関係が問題というよりは、自分の認知が一番の問題であったことに気づいたため、辛い作業ではありませんでした。むしろ自己洞察をすることで、今後の生き方が変わることを実感することができました。他のプログラムでの学びを自分に取り入れることができている人であれば、自分ひとりでもこの作業ができるかもしれません。しかし、スタッフからの助言を得ることで、自分一人では気づけない視点からの指摘が得られ、より良い自己洞察ができると思います。ですので、リワークに通ったらこのプログラムに取組み、納得できるまで考える事を勧めます。
最後に
リワークに通うか迷っている人がいたとしたら、当然ながら通うことをお勧めします。何事もやってみなければ分かりません。いつまでもやらないでいたら、いつまでもやるかどうかで迷い続けることになります。やってみて、嫌だったらやめればいいのです。やらずに後悔するより、やって後悔した方が、経験できた分だけ得です。そして、リワークに通うことで、今後の人生で後悔する回数を減らせると思います。
皆さんがより良い人生を送れることを祈っています。
掲載日:2022年04月01日